サーモンランはケチでプライドの高いお前(俺)を炙り出す

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マゾヒズムを背骨にぶっ刺したゲーム実況者がなぜシャケしばきを?

数あるゲームから特別過酷なものを選び、さらに自分で縛りをかけてプレイする人だったので、スプラトゥーンもやるのかと正直意外だった。だが、私もしばきに身を投じることで、その違和感は納得へと転換していった。

サーモンランは1セット3ターン制で、4人1組となり、目標数の金イクラを納品すればクリアとなる。フィールドは海に囲まれていて狭く、四方、上空から敵が押し寄せ、倒してもすぐに次が湧き出るので休む暇を与えない。金イクラを納品するミッションに加えて、優先度をつけながら敵を倒す、死んだ味方を助ける、動きやすいよう陣地を塗っていくなど、マルチタスクをさばく能力が求められる。

わたしが最近達成した危険度は108%で、ゲーム実況者の笑顔の時間さんは危険度300%(最上級のレベル帯)に立ち向かっている。300%ともなると、状況は常にカオスで、優先度の高い処理案件が同時に10個ぐらい発生しており、「ダメよぉダメダメェ!!!!」「これダイキチィ!!!(大変きついです)」と限界の奇声が飛ぶ。ゲーミングスキルが高い笑顔さんですら「フロムゲーより難しい、なんなら今までやったゲームの中で一番きつい」と仰っていた。

このキツさの蓋を開け、じっくり中を覗いてみよう。まず目につくのは、汚れた足場と武器の性質によってままならない不自由さ。ぬかるんで移動できない、敵に追い詰められているあいだに弾が切れてしまうなど、思い通りに動けないストレスが心を蝕んでいく。

次に、仲間へのイラつき。手持ちの武器やシーンに合わせて、役割分担をしながら攻略しないといけないため、一人がまごつくと、その負債が全員に襲いかかってくる。「死ぬなよ、たわけェ!(安地で引きこもっている)」「とっととスペシャル出せや!(死にかけ)」などと、誰かが発言したのを皮切りに責任の押し付け合いが止まらない。デスはカバーし切れなかった周りにも責任があるので、デスした本人のみが悪いわけではない。それぞれの頑張りが巡り巡って、ひとりのリザルトが構築されている。逆に「今回わたし頑張ったよね?!」と豪語するナルシストに対しても、お前だけの手柄ではないと受け入れることができない。敵はシャケにあらず、ドクサレどもの自尊心がぶつかり相撲しているだけに過ぎないのかもしれない。サーモンランの世界は憤怒で満たされている。不用意な発言が思わぬ激昂へ引火する。長い付き合いの友人とプレイしても、このような炎上が起きるということは、サーモンランが性格の悪さを浮かび上がらせてしまうのだろう。(と思いたい)

しかし、そのキツさの内奥には、えもいわれぬ快楽が詰まっている。クリアできず何度も打ちひしがれ、もう無理だろと諦め、気が向いた時に性懲りも無く挑戦し、死亡スレスレでクリアした時の達成感。脳汁潤々。喜びが心ではなく、体を満たす。張り詰めていた緊張感はほどけ、やわらかくなった全身に快楽が染み渡ってゆく。こうしてバイト中毒は誕生する。

スプラトゥーン3のサーモンランは、前作の2よりも難易度が上がっているらしい。難易度が上がったせいか、単純にスプラ人口が激増したせいか、サーモンランのブラック体質をおもしろがる人がとても増えたように感じる。「困難を克服する達成感」をコンセプトとしてDARK SOULSが作られたように、サーモンラン(3)も意図して困難がデザインされているのではないか。それを、任天堂が手がけたことは、大きな転換を兆しているのではないかと期待してしまう。

この期待は、わたしのねじ曲がった好みによるものだ。最近の任天堂は、絵のトーンが明るく、謎解きもかなりやさしくなっているように感じる。switchのペーパーマリオ オリガミキングでは、ゲームのヒントを出してくれるガイド役が全部ネタバレ・指示出ししてくるので断念したくらいだ。

転機を感じたのは、ゼルダの伝説スカイウォードソード。それまでのゼルダは、ゲボの塊みたいな敵(ライクライク)や、悪の手に落ち荒廃した街、大人の姿になると攻撃してくる同郷の仲間など、ダークな面をたっぷり描いてくれていた。スカウォも制作当初は、前作トワイライトプリンセスのように暗めの背景+彩度の低い敵を配置していたが、背景と敵が見分けづらいという指摘を受け、明るくポップなトーンに変更したらしい。(ファミ通のスカウォ特集にそのようなことが書いてあった)オープンワールドとして名を馳せたブレスオブザワイルドも、古参厨からしてみるとまぶしいくらいに明るく、かつての気持ち悪さは残っていない。

ダークな任天堂作品の別例としては、ゲームキューブで発売されたポケモンコロシアムが思い浮かぶ。ポケモンを使って悪事を働いている謎の組織を倒す、やや異色のストーリー。組織によって洗脳されたポケモンはダークポケモンと呼ばれ、保護した後は、主人公によるメンタルケアによって徐々に回復していく。傷ごと請け負って進んでいくという、丁寧な向き合い方が印象的だった。最初から付き添ってくれるパートナー的ポケモンはエーフィーとブラッキーで、街なみもスチームパンクのような、全体的に錆びついた雰囲気なのがかっこいい。
(いまだにサイトを公開してくれているので見てみてほしい)

時のオカリナといい、ポケモンコロシアムといい、任天堂が作るダークな作品の虜になっていたので、今後はもう明るい作品しかプレイできないのだろうと諦めていた。そんな時に、サーモンランが鬼畜ゲー化したので、またハードでダークな作品を作ろうとしているのではと妄想してしまったのだ。クソ編成に文句を垂れながら、心では感謝と祈りを捧げている。こんな愚かな人間に、どうか腹の底まで真っ黒なゲームを差し伸べてください。

おまけ:
サーモンランの焦燥感を掻き立てる環境は、とてもよくできていて惚れ惚れしてしまう。夕暮れのピークで空が真っ赤に染められていて、少しの刺激を与えたら一転してしまいそうな空気感。海から集まってくる敵の軌跡によって、徐々に足場が失われていく攻撃。恐怖感を煽る音楽。ヘリコプターに乗っている時のBGMは、途中でリズムが捲し立てられ早巻きになるところも、焦りが感じられて好きだ。

それとよく似たシーンが、これまでの任天堂作品に登場している。2002年に発売したスーパーマリオサンシャインのシレナビーチだ。夕暮れのピークで空が真っ赤に染まり、海から電気を帯びたエイが液体の軌跡を残しながら這いずりまわって徐々に足場を奪っていく。スプラがインクで足場を塗り返すように、スーパーマリオサンシャインでは放水によって足場を取り戻す。焦燥感の掻き立て方として完成度が高いがゆえに、スプラへ引き継がれているのかもしれない。小学生時代に苦しめられたシーンと、最新のゲームで再会できたことを、とても嬉しく感じている。

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